なにも片付けられない

ADEM治って相貌失認おまけに躁鬱ADHD

「待たせてごめんね」

友人と行った二丁目のゲイバーで、ハッテン場にある魚型の醤油さしに入ったローションの話や、自らをブランディングする素人の話をして、ケラケラ笑いながら酒を飲んだ。20時半前、店には一人も客がいない。まだ皆お夕飯の時間だからね、と店子が呟く。


暫くすると、隣に喀血しながらも酒を死ぬほど飲むオネエのYouTuber(28歳)が座ってきて、彼はすぐさまFENDIメッセンジャーバッグから胃薬を出し、薄桃色の錠剤を水で一気に流し込んだ。ホストめっちゃ楽しかった!とやや興奮気味、2秒ほど目が合ったので、そのまましばらく会話する。


「ねぇ絶対どっかで会ったことあるよね!?」「ないね!」「キャバやってる!?」「こんな地味なババアがやってるわけねえだろ」「ねえ、ババアにアドバイス貰いたいんだけど、ずっとニートでいたいけん、そういう時はどうすればいい?」「ババアの現状やばすぎてアドバイスできない。三十路なめんなよ」「でもわたし、だいぶ頑張ってる方だと思わん?」「25歳くらいに見える、超カワイイ」「25歳ならそんなに変わらんからね!」


帰り際、今日はわたしの誕生祝いなんだよ、と言うと、店子に「シャンパングラス出して1杯注いであげて」と声をかけて、ご馳走してくれた。それを一気に飲み干して、彼のグラスに注がれたシャンパンも勝手に飲み、カントリーマアムとラムネを奪った。「アンタも厚かましい女ね!」と言われたけど、笑っていただけで怒られなかった。新宿は優しい街だ。たまに調子に乗ると殴られるけど、基本的に普通にしていれば誰でも受け入れてくれる場所で、一度きりの関係がたくさん散らばっていて、後腐れがなくて心地よい。


その子に、酒ばかり飲んでるとすぐ病気になって、わたしみたいに麻痺っちゃうんだよ!と話すと「嫌だけどさあ!わたし、今保険で月5万掛けてるけん、麻痺ったら2000万入るんよ!それならちょっとオイシくない!?」と返されて、確かにオイシイなと思い笑ってしまった。


じゃあ死にかけるまで飲みな!と言った後、またいつかねと声を掛け合い、でもやっぱ飲みすぎないでね、と呟いてから友人と席を立った。さっき死にかけるまで飲みなって言ってたじゃん!と背後から声が聞こえたけれど、振り向かずに外へ出る。


どこもかしこも不快に湿ってる夜。男、女、男と女どちらでもない人、さまざまな装いの人間が行き交っている。このリアルな生臭さというか、いやらしさのない妙な歪さを求めて訪れてしまう。だってここなら誰も他人のことに興味がない。みな自分のご機嫌取り、装うことで精一杯なのだから。